2017.12.09

今回はベースやギターのネックのジョイント方法の中から、セット・ネックについてお話ししていきたいと思います。




セット・ネックとは

セット・ネックといえば、Gibsonのギターのレス・ポールを思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。ベースだとGibsonのノンリバース・サンダーバードやSGベースなどが代表的かと思います。

レス・ポールは愛用者が非常に多くいらっしゃるので、ギタリストにとってセット・ネックはわりと馴染みがあるかと思いますが、ベーシストにとっては、ボルト・オン構造のFender系のジャズ・ベースやプレシジョン・ベースが一般的なので、スルー・ネック以上に馴染みがないように個人的には感じます。

ネックに「ほぞ」、ボディに「ほぞ穴」と呼ばれる凹凸の加工を施し、接着剤で固定するジョイント方法です。このような「ほぞ加工」と「ほぞ穴加工」を施して接合する方法を「ほぞ接ぎ」といいます。英語では「Mortise and Tenon(モーティス・アンド・テノン)」なので、ネックの「ほぞ」を「テノン」と呼ぶ人もいらっしゃいます。

接着剤で固定されているので、一度接着してしまうと外すことが困難なため、修理や調整の際、手間がかかってしまいます。

また、セット・ネックは接着面の大きさによって強度が変わってきます。単純にネックとボディが接着されている面積が大きければ大きいほど強度はアップします。ネック・エンドから更に延長して接着面を稼いでいるものはディープ・ジョイントなどと呼ばれています。

ディープ・ジョイントの場合、そのままでは接着面が丸見えになってしまうので、Gibsonのレス・ポールなどはネック側のピックアップをネック・エンドと隙間なく設置することで回避しています。つまりピックアップの下まで「ほぞ」と「ほぞ穴」がある状態ということです。SGやメロディー・メイカーなどはピックガードで隠されています。

そのほか、セット・ネック構造の代表的な弦楽器をあげますと、アコースティック・ギターやウクレレ、バイオリンなどになります。

サスティーンや音質について

サスティーンや音質に関してはボルト・オンとスルー・ネックの中間とよくいわれることがあります。ただ、特にサスティーンに関しては過去の記事でも述べていますが、ジョイント方法の違いによる違いはなかなか感じにくいと言えるでしょう。ただ、理屈の上ではボルト・オンは点で接合しているのに対して、セット・ネックは面で接合している分、弦振動のロスを軽減できるということになります。

スルー・ネックは別としてボルト・オンやセット・ネックは、いかにネックとボディが密着されているかによっても変わってきます。また、同じセット・ネックの場合でも、接着面がどれくらい設けられているかの違いによっても変わってきますので、一概にセット・ネックだからボルト・オンよりサスティーンが長いとは限らないでしょう。

これは音質的な面でも同じことが言えるかと思います。ボルト・オンだからといって、セット・ネックよりも音の立ち上がりが早いとは限りません。

では、なぜ一般的にサスティーンはボルト・オンよりセット・ネックの方が良く、音の立ち上がりはセット・ネックよりボルト・オンの方が良いといわれるようになったのか。それはエレキ楽器の2大メーカー、FenderとGibsonの違いによる影響が大きいのではないでしょうか。

Fenderの楽器はネック材にメイプルを使用したボルト・オンのものが多いのに対して、Gibsonはネック材にマホガニーを使用したセット・ネックのものが多いです。両者を木材の特徴だけで比べると、メイプルは硬く重いが強度や耐久性に優れており、音質的にはタイトでクリア。マホガニーは軽くてやわらかく加工性に優れており、音質はメイプルに比べて温かみのあるやわらかい音色が特徴といわれています。

世間一般に浸透しているジョイント方法による特徴の違い、特にセット・ネックとボルト・オン特徴の違いに関しては、Fenderのメイプル・ネックによるボルト・オンとGibsonのマホガニー・ネックのセット・ネックの違いになってしまっているような気がします。

メンテナンス性

セット・ネックはネックを外せないと思い込んでしまっている人もいらっしゃるようですが、そんなことはありません。当然ながら、ネックとボディを接着剤で接合しているため、ネックになにかトラブルが起きた際、ネックを外して調整などを行うのは非常に難しいので、下手に素人は手を出さない方が良いでしょう。

また、ネックが折れてしまったり、亀裂が入ってしまったりした場合、修理したとしても音質や強度的な問題が生じるのではないかと思われがちですが、しっかりとしたプロの方が修理すればなにも問題ないようです。ネックがすべて大破してしまっている場合は難しいかと思いますが。むしろ補強材をいれることで、強度も増し、音も良くなるという場合もあるそうです。

ボルト・オンに比べると、ネック交換や修復の際に費用が高くなってしまう場合もありますが、普段のメンテナンスに関してはジョイント方法の違いによる差はあまりないと言えるのではないでしょうか。

ただ、Gibsonなどのネック材にマホガニーを使用しているものは強度が決して優れているとは言えないので、トラブルが起きないよう、マホガニーのセット・ネックの楽器の取り扱いには多少なりとも気を使った方が良いかと思います。

演奏性

演奏性はスルー・ネックほどではありませんが、ネックとボディの接続部周辺のヒール部の加工性は比較的自由度が高いため、ハイ・ポジションでの演奏性が高いものも存在します。

ただ、セット・ネックの代名詞でもあるGibsonのレス・ポールはボディの厚みがあるので、ハイ・ポジションは弾きにくいといった意見が多いようです。そのような問題を解消するため、通常のボディより厚さを約2/3に抑えた「Les Paul Standard Light」というモデルも存在します。

演奏性に関してはネックのジョイント方法以外の要素も多く絡んでくるので、楽器全体のトータル・バランスが重要になってくるでしょう。

おわりに

今回はセット・ネックについてのお話でしたが、ほかにもスルー・ネック、ボルト・オンに関しても記事にしていますので、まだご覧になられていないという人はあわせて読んでいただければと思います。

みなさんの楽器に関する知識に少しでも役立てば幸いです。

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