前回はベースやギターのネックのジョイント方法のひとつ、スルー・ネックに関するお話でしたので、今回は現在もっとも一般的なボルト・オンについてお話していきたいと思います。
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ボルト・オンとは
ネックとボディを接着せず、ボディのネック・ポケットと呼ばれる溝にネックをはめ込んで、ボルトで固定するジョイント方法です。別名「デタッチャブル」とも呼ばれています。デタッチャブルとは取り外しや着脱が可能という意味です。
ネックとボディを別々に製作できるなど、ほかのジョイント方法に比べて生産効率が高く、量産性に優れているため、コストを抑えて比較的低価格での販売が可能とのこと。
かつてのジョイント方法はセット・ネックが主流でしたが、Fenderの創設者であるレオ・フェンダーが量産性を優先してボルト・オンを採用したことで広まったと言われています。レオ・フェンダーがボルト・オンを最初に考えたと言われることもありますが、いろいろ諸説ありますので、興味のある人は調べてみてください。
次第にFender以外の多くの楽器メーカーもボルト・オンを取り入れはじめ、ジョイント方法として、今ではもっとも一般的となりました。
演奏性
ヒール部と呼ばれるネックとボディの接続部に段差があるため、ハイ・ポジションでの演奏性は高いとは言えません。演奏性を高めるため、ヒール部を薄くしたヒールカット加工が施されているモデルもあります。
ただ、ハイ・ポジションでの演奏性に関してはボディのカッタウェイの形状も影響してくるので、そのあたりのバランスが重要となってきます。ちなみにカッタウェイとはボディのヒール部付近のカットされている形状のことを指します。ボディの片方だけがカットされているものは「シングル・カッタウェイ」、両方カットされているものは「ダブル・カッタウェイ」と呼ばれています。
音質
音質的な面ではアタック感が強く、歯切れの良さや締りのある音色が特徴と言われています。特にギターの場合はカッティング奏法などに向いているのではないでしょうか。音の立ち上がりも早く、レスポンスの良さにも定評があります。
また、ボルト・オンのおもしろいところは、ボルトの締めつけ具合によって音質が変化するという点でしょう。ネックとボディの接合部の密着度が変わることにより、ネックやボディの振動の仕方も変わってきますので、当然音質も違ってくるというわけです。
傾向としては、増し締めをして強く締めたつけるとタイトでハリのある音色に、緩めるとルーズな音色になります。ドライバーさえあれば好みに合わせて簡単に調整できるので、興味のある人は一度試してみてください。
ネック・プレート
ボルト・オンの形状にはさまざまな種類がありますが、大きく分類するならネック・プレートがあるものとないものに分けられます。「ジョイント・プレート」とも呼ばれており、基本的には金属製ですが、なかには木製のものも存在するそうです。
そもそもこのプレートはなんのためについているのかと言いますと、ボルトで締めつけられる力を分散するという大事な役目を担っています。ボディにやわらかめの木材を使用している場合、プレートがないと徐々にネジ穴が広がってしまい、ネックにガタつきが出たり、ネック・エンドが割れたりするなどのトラブルが起きやすくなってしまいます。
プレートがないものには、ジョイント・ブッシュと呼ばれるパーツをボルトとボディの間に挟んで接地面を広げ、締め付けられる力を分散しています。プレートがない分、ヒール部の加工の自由度は高くなりますが、プレートに比べて分散力が弱いため、ボディに比較的硬めの木材が使用されている場合でないと、先ほど述べたようなトラブルが起きやすくなってしまいます。
また、ネック・プレートの厚さや重さ、金属の種類などによって音質や音の立ち上がりの早さ、サスティーンなども変わります。
ボルトの締めつけ具合を調整するのと比べると、お手軽感はそこまでないのと、楽器に使用されている木材との相性などもあるので、実際に交換してみないことにはなんともいえません。ただ、比較的簡単な作業でできますので、お手持ちの楽器の音色を変えてみたいという人はチャレンジしてみてはいかがでしょうか。
ネットで調べてみるとFreedom Custom Guitar Researchの「Tone Shift Plate」というシリーズが人気のようです。Freedom Custom Guitar Researchは国内最高峰の呼び声高い日本のメーカーなので、安心感が違いますね。
ボルトの本数
モデルによってボルトの数はさまざまですが、おそらく一番多いのは4点止めかと思います。理屈だけで言えば、ボルトの数が多い方が締めつける力を分散できるので、全体としてより強い力で締めつけることができます。結果ネックとボディの密着度が増すので、弦振動のロスが少なくなり、サスティーンも良くなるということです。
しかし、多ければ多いほど良いというものではありません。木材に穴をあけすぎてしまうと、木材自体の強度が低下してしまい、トラブルの原因になる恐れがあります。そのあたりは使用されている木材の強度とのバランスも重要になってくるかと思います。
ただ、先ほど述べたように、ボルトの締め付け具合で音質が変わるということは、何本のボルトで止めているかによっても音質は変わるということです。ボルト・オン仕様の楽器にとっては、ボルトの数も音質を左右する重要な要素のひとつとなっています。
サスティーンについて
ほかのジョイント方法に比べてサスティーンは比較的短めな傾向にあると言われています。ただ、これは一概には言い切れません。しっかりと丁寧に仕上げられているボルト・オンであれば、スルー・ネックにも引けを取らないぐらいのサスティーンを得ることも可能でしょう。そもそもジョイント方法の違いによるサスティーンの差なんてないに等しいという意見もございますが。
個人的な憶測ではありますが、ボルト・オンはサスティーンが良くないと言われる理由として、量産されている安価なものの中にはボルト・オン仕様の楽器にとって非常に重要なネック・ポケットにボディの塗料などが入り込んでガタガタな状態になっているものもあります。そのためネックとボディがしっかりと密着しておらず、弦振動のロスが大きくなってしまっているものがそれなりに出まわってしまっているからではでしょうか。
ただ、言えるのはボルト・オンだからスルー・ネックよりサスティーンが良くないといった偏見は捨てた方が良いということです。
メンテナンス性
ボルト・オンのメリットとしてあげられることが多いメンテナンス性の高さ。当たり前なことではありますが、ネックとボディが別々のパーツで構成されているため、取り外しができるので、ネック関連の修理やリペアなどの作業も行いやすいと言えるでしょう。
ネックのセンターズレなどのトラブルもセット・ネックでは難しいですが、ボルト・オンなら比較的簡単に行えるようです。最悪ネックが折れてしまった場合でも比較的安易に交換できるのは大きなメリットのひとつです。
また、ブリッジのサドルを限界まで下げても弦高が高いなどといった場合、シムと呼ばれる薄い板をネックとボディの接合部に挟み、ネックに角度つけることで解消できることがあります。シムを挟むことに対しては賛否両論ありますが、後々の微調整も行いやすいのはボルト・オンならではの魅力かと思います。
おわりに
今回、改めてボルト・オンの特徴を書き出してみて、奥の深さを再確認することが自分自身もできました。
ボルト・オン仕様の楽器をお持ちの人は多いかと思いますが、その中でもお手持ちの楽器の音にイマイチ納得がいっていないという人は、ピックアップなどの電気系統だけでなく、ジョイント部も見直してみてはいかがでしょうか。もしかしたら良い結果が得られるかもしれません。