2017.07.04

ベーシストの皆さんなら普段、音楽仲間と話をする時などに「グルーヴ」や「ビート」といった単語を使われることは珍しくないかと思います。

それなりになじみのある言葉ではありますが、「グルーヴってなんですか?」と質問された時、あなたはすぐに明確な返答ができますか?

なんとなく言葉の意図するものは分かっていても、具体的にどういったものなのかを説明できる人というのは、実は結構少ないのではないかと思います。

今回は個人的に重要だと思うものをいくつかピックアップしてお話していきたいと思います。




Groove

我々が普段使っている「グルーヴ」という言葉はいわゆる「ノリ」を意味している場合が多いのではないでしょうか。「ノリの良い音楽」と表現するより「グルーヴ感のある音楽」の方が格好良く聞こえますしね。

また、ジャストのタイミングよりややツッコミ気味に演奏することを「前ノリ」、ややタメ気味に演奏することを「後ノリ」と言いますが、そういった細かいニュアンスなど、様々な音楽的要素が合わさった時に生まれる高揚感、心地良く感じるリズムのうねりや揺らぎのことを「グルーヴ」と表現する場合もあります。個人的にはこちらの方がしっくりきます。

ただ、西洋人が使う「グルーヴ」は日本でいう「リズム・パターン」の意味合いが強くなります。リズムのニュアンスやフィーリングを表す場合は「イーブン・フィール」や「バウンス・フィール」のように「フィール」という言葉を用いることの方が多いようです。

また、「ノリ」や「タメ」といった表現はもともと日本の伝統音楽の世界で使われていたもので、そこから引用されていると言われています。

Beat

最近では即興でのラップ・バトルが流行っているので、バトルが始まる直前に司会進行役の人がDJに「ビートを聴かせてください!」といったシーンを目にする機会も増えてきているとかと思います。

日本のヒップ・ホップ業界では「ビート」=「バッキング・トラック」、いわゆるヴォーカルなしのインストゥルメンタルの曲という意味ですっかり定着しています。

ただ、本来「ビート」は「拍」を意味する名詞です。なので、例えば「この曲のAメロは疾走感のあるビートが心地良い!」や「イントロの重めのビートも好き!」などといった表現は恐らく大体の人に意味は伝わるとは思いますが、使い方としては正しいとは言い難いでしょう。

「ビート」という言葉自体にリズムなどのニュアンスを意味する要素はありません。

また、英単語の「Beat」は続けざまに打つ、叩くといった意味もあるため、ドラムなどの打楽器が奏でるリズムのことを「ビート」という言葉で表すことも多いかと思います。

ただ、「8ビート」や「16ビート」といった言葉もよく使われるかと思いますが、これらは和製英語ですので、海外では通用しません。ではどう表現すれば海外の人に伝わるかというと「Eighth Note Rhythm(8分音符リズム)」、「Sixteenth Note Rhythm(16分音符リズム)」と伝えればで理解してくれるはずです。

Time

一般的な意味では「時間」ですが、リズム用語としては「拍子」を意味します。同じ「拍子」を意味する言葉で「ミーター(Meter)」というものもあります。

「タイム」との違いですが、「タイム」にはリズム感の良し悪しの意味合いも含まれており、「あのドラマーのタイムは最高だ!」などといった使われ方もします。一方「ミーター」にはそういったリズム感に関する意味合いは含まれておらず、単に「拍子」を表す言葉として使用されます。

先に述べた「ビート(拍)」がいくつか集まることで「タイム(拍子)」が構成されます。そして「ビート(拍)」が訪れる周期が「テンポ」です。

なぜ「タイム」と表現されるようになったのかは、リズムがある時間的進行に束縛されつつ演奏されるものだという概念が西洋音楽にはあるからだと言われています。

一方、日本には伝統音楽で周期的に反復される強弱の拍子である、「間拍子(まびょうし)」というものがあります。日本の「拍子」という概念は西洋の絶対的な時間進行にのっとったものより、間合い的な意味合いが強いです。

おそらく、日本人なら誰でも知っていると思われる伝統的な「三三七拍子」は日本古来の間拍子的リズムの代表と言えます。無音の部分は拍子としてカウントしない日本の独自の解釈で「三三七拍子」と名付けられたのでしょう。3拍子や7拍子はどこにもなく、ただの4/4拍子というか、1/4拍子の連続となっています。

日本の「拍子」という言葉には西洋の「タイム」が示す時間の概念が乏しく、本質的に異なります。

また、読み方も日本では「6/8拍子」を分数のように「8分の6拍子」と読みますが、英語では「Six Eight Time」と上の数字から先に読みます。

Rythem

今回、リズム用語についてお話してきましたが、最後にそもそも「リズム」とはなんなのかについても触れておきたいと思います。

音楽においては「メロディー」、「ハーモニー」とともに3大要素のひとつとされている「リズム」ですが、簡単に説明すると「ある時間の中で強弱を持つ音のまとまり(パターン)が周期的にくり返されるもの」といったところでしょうか。

その要素の中には音の強弱の他に高さや入り方、切り方、運び方、タイミング、躍動感なども含まれます。

ただ、「リズム」は日本語に直訳すると「律動」です。「律動」の「律」という漢字は、「物事を行う基準となる掟」という意味もありますが、日本の伝統音楽の音程を示す単位でもあります。

つまり「律動」とは音程の動きであり、日本の独自の考え方としては「リズム」はメロディーに付随しているもの、音程の動きや変化が「リズム」だと解釈されています。

しかし、近年の日本のポピュラー音楽はロックやR&Bなど、海外の音楽からの影響が色濃くなってきているため、日本の独自の「リズム」に対する解釈は薄れてきていると言えるでしょう。

おわりに

ミュージシャンは音で表現できれば、別に専門用語の意味なんてちゃんと理解していなくても問題ないとおっしゃる人もいるかもしれませんが、知っていて損をすることはないでしょう。知識ばかりで頭でっかちになってしまうだけでは意味がありませんが、知識は立派な武器だと僕は思っています。

「リズム」は音楽の重要な3大要素のひとつです。こういった要素を深掘りしていくことも、音楽の楽しみ方のひとつなんじゃないでしょうか。皆さんの音楽の幅を広げるきっかけになれば幸いです。