2017.09.25

この記事を読んでくださっている人のほとんどがベーシストかと思いますが、みなさんの中でグラファイト・ネックのベースを持っている、もしくは弾いたことがあるという人はどれくらいいらっしゃいますでしょうか?

僕自身、もちろん存在は知ってはいましたが、触ったこともありませんし、興味すらありませんでした。むしろどちらかと言うと、グラファイト・ネックのベースに対して否定的な意見を持っていました。

まず、なぜネックにだけ木材以外のものを使うのか意味が分からない。ほとんどのベースのネックは木材なんだから結局のところ木材が一番適してるんじゃないの?というのが無知な人間の勝手な意見でした。

ただ、よく知りもしないで否定的になるのはグラファイト・ネックのベースを愛用している人たちに対して失礼ですし、良くないと思ったので、この機会にいろいろと調べてみました。




そもそもグラファイトとは?

グラファイトとは日本語では石墨(せきぼく)、黒鉛(こくえん)などと呼ばれる炭素からなる元素鉱物です。

ベースやギターのネックの素材として使用されているものは、主にこのグラファイトとカーボンを混ぜた合成素材が使われています。合成比率は各メーカーによってさまざまです。

特徴

まずグラファイト・ネックの長所としてよくあげられるのは、木材に比べて気候などの外的要素からの影響を受けにくいため、反りに強くコンデションが安定しているといった点です。そのほか、音の立ち上がりが早くクリアである、ピッチが安定する、音の伸び(サスティーン)が良い、デッド・ポイントが少ない、などがあります。

補足ですが、ベースやギターなどのデッド・ポイントとは、特定のポジションでの音の伸び(サスティーン)が極端に悪く、音が詰まるような現象のことを指します。

短所としては音が硬く音色がタイトすぎる、反りにくいが反った時の調整が難しい、比較的高価なものが多いといった点がよくあげられます。

音色に関しては、指板もネック同様に合成素材を使用している場合と指板は木材を使用しているものがあり、それによって音色も変わってくるようです。指板に木材を使用することで、ある程度硬質な音色も抑えられるとのこと。

また、グラファイト・ネックは反りに強いと言われているので、調整するトラス・ロッドが入っていないものも存在します。そのため、反った時の調整が困難になってしまうというわけです。木材に比べて反りには強いですが、決して反らないというわけではないようです。

ただ、グラファイト・ネックにはすべてトラス・ロッドが入っていないと思い込んでいる人もいらっしゃるかもしれませんが、トラス・ロッドが組み込まれていて、調整が可能なものも多く存在します。

重さに関しては木材とそこまで差はないようです。木材にもよりますが、同等か多少グラファイトの方が重いぐらいとのこと。

歴史

1977年、後にModulus(モジュラス)の創設者となるジェフ・グールドのアイデアによってAlembic(アレンビック)から発表されたものが世界で初めてのグラファイト・ネックのベースとのこと。その最初の1本はイギリスのロック・バンド、Fleetwood Mac(フリートウッド・マック)のベーシストであるジョン・マクビーが購入されました。

その後、グラファイト・ネックの生みの親であるジェフ・グールドは1978年にModulus Graphite(モジュラス・グラファイト)を設立し、1982年にはMusic ManからStingray(スティングレイ)のボディにModulus製のグラファイト・ネックを採用したCutlass(カトラス)とSabre(セイバー)のボディに同じくModulus製のグラファイト・ネックを採用したCutlass Ⅱを発売しています。

そのほか、1980年代前半に創業したSteinberger(スタインバーガー)やStatus Graphite(ステイタス・グラファイト)からもグラファイト・ネックを採用したベースが登場するようになります。

主なメーカー

グラファイト・ネックを採用したベースを発売しているメーカーをいくつか紹介しておきます。

・Alembic
世界で初めてグラファイト・ネックを採用したベースを発売したアメリカ・カリフォルニア州の楽器メーカー。アクティブ・ベースを初めて世に送り出したのもAlembicです。ちなみに1985年にグラファイト・ネックの楽器の生産を中止しています。愛用者としてスタンリー・クラークの印象が強いですが、ほかにもLevel 42のマーク・キングやThe Whoのジョン・エントウィッスルなども有名です。

・Modulus
先にも述べましたが、グラファイト・ネックの生みの親であるジェフ・グールドが創業したアメリカ・カリフォルニア州の楽器メーカー。その後、ジェフ・グールドはModulusを退社し、1995年に自身の名前を社名にしたG. Gould(G・グールド)という楽器メーカーを新たに立ち上げ、現在もグラファイト・ネックのベースを製作しています。Modulusの名を世界的に広めたのはやはり、Red Hot Chili Peppersのフリーでしょう。

・Steinberger
アメリカで家具職人をしていたネッド・スタインバーガーがSpector(スペクター)の創設者であるスチュアート・スペクターと出会い、のちにSpectorの地位を確固たるものにしたモデル、NSシリーズをデザインしたことをきっかけにギターやベースなどの楽器デザインの道に転職。1980年にSteinbergerを設立し、同社の代表モデル、ヘッドレス・デザインのベース「L2」を発売。ネックには独自の比率でグラファイトとカーボンを混合した合成素材が使用されていました。発売当時から製造工場がテネシー州ナッシュビルに移転する1992年より前のものにはトラス・ロッドは入っていませんでしたが、ナッシュビル移転後のものにはトラス・ロッドが組み込まれているとのこと。また、現行モデルではネックに合成素材は使用されておらず、独自のCybrosonicテクノロジーを用いた、メイプルの3ピース・ネックにフェノリック樹脂の指板、グラファイト製トラス・ロッド・チャンネルを組み合わせたハイブリッド・ネックとなっているようです。

・Status Graphite
1981年創業のイギリスの楽器メーカー。日本では取り扱っているところも少なく、あまり知られていませんが、ヘッド・レスでグラファイト・ネックのベースを製作しているメーカーとしては同仕様のSteinbergerと肩を並べるほどとのこと。Level 42のマーク・キングやMUSEのクリス・ウォルステンホルムが愛用されています。

・Moses(モーゼス)
SteinbergerなどにOEM供給をしている、1989年にアメリカ・オレゴン州で設立された楽器メーカー。

・ZON(ゾン)
すべてハンドメイドでつくられており、独自の技術とデザイン性が高く評価されているアメリカ・ニューヨーク州の楽器メーカー。設立は1981年。グラファイト・ネックの特許を持っていたModulusと5年間提携関係を結んだ後、独自の技術により「コンポジット・ネック」と呼ばれるグラファイトを主とした合成素材のネックを開発し、採用されています。また、指板にはフェノウッドという木材が使用されているのも特徴のひとつです。初期のものにはトラス・ロッドは入っていなかったそうですが、現行のモデルには組み込まれているとのこと。L’Arc~en~Cielのtetsuya氏がインディーズ時代からレコーディングではメインとして使用されており、2011年にエンドース契約を結んだことでも有名かと思います。

おわりに

調べるまでは、グラファイト・ネックに対して否定的かつ、興味さえ持っていませんでしたが、今回いろいろと調べてみてかなり興味がわいてきました。これを機に楽器屋に行った際はグラファイト・ネックのベースを一度試奏してみたいと思います。

耳にしたことはあるものの、グラファイト・ネックについてあまりよくご存じでなかったという人の知るきっかけになれば幸いです。