出典: Warwick – 35th Anniversary – YouTube
今年2017年で創業35周年を迎えたWarwick。今では世界中の多くのミュージシャンたちが使用しており、楽器メーカーとして確固たる地位を確立したと言っても過言ではありません。
日本でもプロ、アマ問わず人気が高く、愛用されている人は多くいらっしゃいます。僕もWarwickは1本所有しています。
今回はWarwickの歴史についてお話ししていきたいと思います。
創設初期
Warwickは1982年に当時の西ドイツにて、24歳だったハンズ・ピーター・ウィルファー氏によって創業されました。父親も同じく楽器メーカーの創業者でした。父親が創業したFramus(フラマス)は1946年に設立され、The Beatlesのジョン・レノンやThe Rolling Stonesのビル・ワイマンなどが使用していたことでも有名でしたが、1975年に一度倒産しています。幼い頃から父の楽器工場によく遊びに行っていたウィルファー氏は、そこで楽器に関する多くのことを学んだそうです。
Warwickが最初に製作したベースとしてよく話題にあげられているのは、Steinberger(スタインバーガー)にそっくりな「Nobby Meidel(ノビー・メーデル)」というモデルです。モデル名は、当時アイデアを提供してくれたセールスマンの名前から命名されたのこと。
出典: warwickbass.com/
ただ、本家のサイトではジャズ・ベースのボディにプレシジョン・ベースなどに使用されるスプリット・タイプのピックアップをふたつ搭載した「JB Bass」というモデルが最初のベースとして紹介されています。
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同時期にフロントにスプリット・タイプ、リアにシングル・コイル・タイプのピックアップが搭載された、いわゆるPJタイプの「TV Bass」というモデルも発表されています。
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現在でもWarwickのベースのネックや指板によく使用されている木材であるウェンジは、当時から採用されていたとのこと。今ではほかのメーカーでも使用されていますが、初めて採用したのはWarwickだそうです。
また、ネックに仕込まれているトラスロッドも、当時から順反りと逆反りの両方に対応した2WAY方式のダブル・アクション・タイプのものが採用されていたと言われています。
コピー・モデルが大ヒット
今ではすっかりWarwickの定番モデルとなった「Streamer Stage I」が1983年に発表されます。ご存知の人も多いかと思いますが、このStreamerシリーズ、SpectorのNSシリーズにかたちがそっくりです。
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Nobby Meidelに続き、他社のモデルにそっくりなベースを発表してきたWarwickのパクリ気質については、度々物議をかもしています。特に海外のベース・フォーラムでは収拾がつかなくなるほどの論争に発展してしまうため、WarwickのスレッドではSpectorについて触れない、SpectorのスレッドではWarwickについて触れないといった暗黙のルールのようなものがあるとのこと。
むしろ最近ではSpectorより、Warwickの方が知名度があるため、若い世代の人の中には逆にSpectorがパクったと勘違いしている人もいらっしゃるようです。
Steinbergerも、このNSシリーズもデザインしたのはSpectorの創業者、スチュアート・スペクター氏の友人である元家具デザイナーのネッド・スタインバーガーという人物。名前からも想像がつく通り、Steinbergerの創業者です。同じ人のデザインを一度ならず二度までも真似するのは少し悪意を感じてしまいます。よっぽど影響を受けていたのでしょうか。
Spectorの創業者であるスチュアート・スペクター氏とネッド。スタインバーガー氏は
1979年に発表されたSpector NS-2はすでに世界的人気を確立していましたが、ヨーロッパでは当時、入手が困難でした。そんな状況もあり、NS-2にそっくりなStreamer Stage Iはヒット・モデルとなります。
この勢いに乗って1984年には「Thumb Bass」を発表。このモデルも今やWarwickの定番となっています。当時としては珍しい硬質なブビンガやオバンコールなどの木材を採用したことでも話題となり、Warwickの名は世界的に広まっていきました。
コピー・モデルから独自のモデルへ
Streamer Stage Iのヒットにより、勢いに乗りはじめていたWarwickですが、1985年のMusikmesse(ムジークメッセ)という現在も開催され続けているヨーロッパ最大の楽器見本市に出展したのをきっけかけに、Spectorに無許可でNSシリーズのコピー・モデルを販売していることがバレてしまいます。
このままではStreamerを販売できなくなってしまうと危機感を感じたウィルファー氏は直接交渉を行い、ライセンス料を支払うとともに、Streamerのヘッドに「Licensed by Spector」と表記するという条件で合意し、製造、販売を続ける許可を得たとのこと。しかし、この話はこのまま円満には終わりませんでした。
少し話は脱線してしまいますが、同時期に小さな工房での製作に限界を感じていたスチュアート・スペクターはSpectorをKramer(クレイマー)に商標ごと売却します。売却後、彼はKramer社内のSpectorブランドとしての責任者となり、製作などに深く携わっていきましたが、1991年にKramerは倒産。
商標ごと売却していたため、Spectorブランドとしての名前を自由に使えなくなってしまいます。スチュアート・スペクターは新たにStuart Spector Designs(SSD)を立ち上げると同時に商標を取り戻すため、Kramerを相手に裁判でその後約8年間も争い続けます。
長期渡る裁判の末、商標を取り戻すことに成功したものの、今度はWarwickがライセンス料を支払っていなかったことや、ヘッドに「Licensed by Spector」という表記も行っていなかったことが判明。Warwickを相手に再び裁判を起こします。
しかし、WarwickのStreamerシリーズはSpectorのNSシリーズとは違う独自の製品と判断され、Warwickが勝訴します。このことがお互いのファン同士の間で確執が生まれた大きな原因となっているようです。
ただ、現在までにWarwickはStreamerシリーズ以外に様々な個性的なモデルをいくつも発表し続けてきており、それらは明らかに独自の要素が多く含まれたものとなっています。もうすでに法的な結論も出ているので、結局はそれぞれが好きなものを選べば良いといった考えのベーシストも多いようです。
楽器メーカーとしての地位の確立
創業から35年の間に「Streamer Stage Ⅱ」や「Dolphin」「Corvette」、「Infinity」など数々のヒット・モデルを発表するとともに、1995年には父親が創業したものの、1975年に倒産したFramus(フラマス)を復活させ、2002年には主に中国の工場で生産されたエントリー・ユーザー向けの廉価ブランド、「RockBass」も設立。楽器メーカーとして大きく成長してきました。
そんなWarwickが楽器メーカーとしての現在の地位を確立できたのは、人気ミュージシャンたちとの積極的なコレボレーションも大きいのではないでしょうか。
The Whoのジョン・エントウィッスルや、エリック・クラプトン率いる伝説のバンド、Creamのジャック・ブルースといったレジェンド級のミュージシャンや、Metallicaの現ベーシストであるロバート・トゥルージロ、元Jamiroquaiのベーシスト、スチュアート・ゼンダー、ブーツィー・コリンズなど、多くのミュージシャンたちのシグネチャー・モデルも発売してきました。また、エンドース契約を結んでいるミュージシャンも非常に多くいらっしゃいます。
そのほかのシグネチャー・モデルや、エンドース契約を結んでいるミュージシャンたちについては、本家のサイトにすべて載っていますので、気になる人はそちらをご覧ください。日本人ですと、現在は櫻井哲夫氏、村田隆之行氏、清氏の3名がエンドース契約を結んでいます。
en/Warwick—Artists–Artist.html
また、1980年代後半から1990年代前半にかけてのミクスチャー、オルタナティブ・ロックのムーブメントの中心的バンド、Red Hot Chili PeppersのフリーがMusic ManのStingryを使用していたこともあり、その影響でこの時期、この手のジャンルのベーシストはStingryを愛用されている人が非常に多くいらっしゃいました。
しかし、その後の1990年代後半から2000年代あたりにかけて、メタル的な要素を取り入れるバンドも増え、よりヘヴィーなサウンドが注目されるようになり、それと同時にStingryに替わってWarwickを愛用する人が増えはじめました。Limp Bizkitのサム・リバース、Slipknotのポール・グレイ、Incubusのダーク・ランスなどが有名かと思います。
こういった音楽的な時代の変化も大きかったのではないでしょうか。現在ではポップスからジャズ系まで、多くのベーシストが使用されています。
おわりに
他社のコピー・モデルのヒットがきっかけとなったWarwickですが、それだけではここまで大きく成長できなかったと思います。楽器メーカーとして、ビジネス的な部分も非常に長けているのだと思います。Spectorとの契約を守らなかったのはどうかと思いますが…。
楽器は弾いてナンボだとは思いますが、こうした楽器メーカーの歴史を知るのも、またひとつの楽しみだと個人的には思っています。共感していただける人がいれば幸いです。